当時のF1.5はアナスチグマートを崩壊させる言わば死線ともよべる口径比だったはずである。技術水準から考えればアナスチグマートが5大収差の全てを満足のゆくレベルで封じ、画質的に健全でいられたのは、F2前後までだったのであろう。これを越えてしまった1960年代のPancolarやContarex-Plannarが画質的に厳しいレンズであったのは確かなことである。しかし、当時のユーザーサイドがこれを拒絶しなかったのはとても興味深いことではないだろうか。私の知る限り55mm F1.4が嫌われ者であったという悪い評判はどこにもみられない。むしろ、ユーザーサイドには限界に挑むスーパーレンズを暖かく見守る広い心があったようにも思える。